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レイ
『ブブー!』
千夜くんを迎えに来た恭子さんの車のクラクションが鳴っても、子犬は結局現れませんでした。
「鈴木、行くぞ。暗くなったら、あんたん家の親が心配するだろ。元気出せ」
「はい…済みません、千夜くん。ご迷惑をお掛けして…」
「別に良ーけどよ。あんま考え過ぎんなよ」
千夜くんに腕を掴まれ、引っ張られる形で僕は体育館裏を後にしました。
傷心しきったまま、恭子さんの車が止まっている校門前まで来た時です。
「こんばんは、鈴木さん」
聞いたことのない…ですが、鈴を転がしたような可愛い声に僕は呼び止められました。
振り返ると、茶髪のロングヘアーで白いワンピースを着た愛らしい女の子が校門前に立っています。
僕は記憶を遡りますが、一向に誰だったか思い出せません。
「私、レイです」
れい…?
名前を聞いても心当たりが有りません。
レイさんは僕のことを知っているのに、何だか申し訳ない気分になります。
「何だよ、鈴木。あんたも隅におけないな。コレか?」
千夜くんがニヤリと笑って小指を立てますが、とんでもないです。
「それが…初対面と言いますか…覚えていないです…」
僕は正直に言いました。
記憶力には自信が有ったのですが…。
恭子さんが言います。
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