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受験会場
高校受験の会場で、皆子の隣の席の女の子がなにやらおろおろしていた。
「どうかしたんですか?」
「消しゴムを………消しゴムを忘れてしまったらしくて。」
前髪を横に流してピンできっちりと留め、集中する態勢のその女の子は、今にも泣き出しそうな顔をしている。
そりゃ泣きそうにもなるだろう。試験はマークシート式なのだから。
「なんだ、そんなこと。」
皆子はこの日のために新調した消しゴムの、真ん中に爪でキズをつけ、そこから2つにちぎって片方を女の子に渡した。
「使ってください。」
女の子はひどく驚いた顔をしていた。
それはそうである。ここに集まっているのは、全員ライバル同士なのだから。
だけどライバル同士なら、お互いに実力を出しきりあいたいじゃないか。
「私もあるから、困らないし。」
ちぎったもう片方を振って笑うと、女の子はほっとした様子で「ありがとう!」と言った。
皆子は思わず、
「一緒に受かりたいね。」
と言っていた。
女の子は笑顔でうなずいた。
後で友人にこの話をしたところ、
「やっぱ、たらしだわ、皆子は。
その子きっと、120%実力発揮したよ。」
と笑われた。
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