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十四
「アール君、見ていて」
「エルバ様、気を付けて」
竹ぼうきに乗る練習を始めて一ヶ月。
はじめのうちは魔力のコントロールが上手くいかず、雲よりも高く飛び、ほうきだけ飛ぶなどのハプニングもあったけど、どうにかスムーズに乗れるようになってきた。
魔力を操り、もっと、スイスイッとほうきに乗れるようになれば、エルブ原っぱまで五分もかからずに行けるようになる。いつかここを旅立ち、外の世界を見に行ってみたいと思う。
「アール君、どう?」
「はじめの頃よりは魔力が安定しましたね。いまなら魔法を使っても暴発しないでしょう……しかし、エルバ様の焦り、緊張で変わるかもしれませんが」
焦りと緊張か……魔法を使う時にそれがでてしまい、魔法を暴発させてしまう。
「まだまだ訓練が必要だね」
「そうですね、エルバ様が魔法を使わなくてもいいよう、僕が頑張りますけど」
「えー、私だって魔法を使いたい」
「でしたら、訓練あるのみです」
「わかった、がんばる!」
アール君にみてもらいながら、そのあともほうきに乗った。
しばらくして魔力はきれないけど……集中力がきれる。
「ふうっ、疲れた――アール君、少し休憩。冷やし庫に今朝、冷やしておいたシュワシュワ飲みに行こう!」
「ええ、行きましょう。甘苺ジャムのシュワシュワが飲みたいです」
甘苺ジャムをシュワシュワか。
「いいね、それにしよう!」
休憩をしにアール君と庭から家に戻ると、ママが調合室から、血相を変えて玄関まで走ってきた。
「ママ、何かあったの?」
「エルバ、アール君――悪いのだけど。キリ草を原っぱから採ってきて欲しいの」
キリ草?
キリ草とは――魔法水と混ぜれば傷薬になる薬草。
ママの、この慌てようはただことではない。
「キリ草はどれくらいるの?」
「いま、他の人にも頼んだのだけど……エルブ原っぱに生えているだけ欲しいわ」
エルブの原っぱに行かなくても……エルバの畑にキリ草は生えている。ママは驚くけどいまは緊急のようだし。
「ママ、いまからキリ草をだすね!【エルバの畑オープン】」
「え?」
目の前に畑の画面をだして、キリ草を何度かタップした。すると、一束にまとまったキリ草が目の前にポフッと現れる。
「これで、一束か……ママ、あと、どれくらいのキリ草がいるの?」
「……あと、二十束あれば助かるわ」
二十束か……その数だと少し時間がかかる。
博士、畑いっぱいにキリ草を生やしたいのだけど、どうすればいい?
《空いている畑にキリ草を植え。キリ草をタップしたままスライドしてください》
空いている畑、スライド?
わかった。
博士が教えてくれたと通りに、ページをめくり何も植えていない畑にキリ草を植えて、タップしたままスライドさせた。
――おお、畑一面にキリ草が生えた。
博士ありがとう。
これなら一気に集めれる! 私はつぎつき採取すると、私の前にキリ草がポンポンと束になって現れた。
それを、みていたママは。
「エルバ、あなた……」
「ママ、この説明は後でするから。このキリ草を使って、手伝えることがあれば手伝う」
二十束のキリ草を渡した。
「あ、ありがとう……エルバは水瓶に魔法で魔法水を出して、その間に私はキリ草をすり潰すわ」
「僕も、すり潰すのを手伝います」
「アール君、ありがとう。エルバ、頼んだわよ」
「はい!」
+
必要な分の傷薬ができた。ママは急いでほうきに乗り届けにいった。
それから一時間後。傷薬を届けて戻ってきたママから話を食卓できいた。今日の早朝――鬼人の人が山菜採りに夢中でミネルバ様の守りの結界を超えてしまい、魔族の森に迷い込んだとのこと。
「魔族の森に!」
「これは厄介ですね」
「ええ。そのまま森を抜けて帰ってくればよかったのだけど。運悪く、鳥型モンスターに見つかってしまったの」
いまの時期は産卵期で鳥型モンスターは卵を守る為に凶暴。そのモンスターから逃げ切り結界のなかに入れば、鳥型モンスターも追っては来れないはず。
しかし、その鳥型のモンスターはミネルバ様の結界を超え街に近くまで侵入したきた。それは、この国が出来て初めてのできごと。
「それで、鬼人の人は? 鳥型のモンスターはどうなったの」
「戦える獣人、竜人達の力を借りて鳥型モンスターは捕獲したのだけど、捕獲をするために多くの怪我人が出たわ……エルバ、パパも参戦して怪我をした……」
え、パパが怪我をした?
「ママ、パパは平気なの?」
「ええ、怪我は大したことがないのだけど……モンスターが侵入したことで結界に穴が空いてしまった……そこから入ってきた毒草の毒にやられてしまったの」
「毒草の毒?」
「他にも数名、その毒で倒れたわ……」
「ママ、毒草なら解毒草があれば治るよね。今すぐ解毒薬を探さないと。その毒草の名前は?」
毒草の名前がわかれば博士に聞いてその毒素を見つければ、解毒草もわかるはず。
「ママ、その毒草の名前を教えて!」
「……わからないの」
「え?」
ママの瞳に涙がたまる……体も震えている?
「エルバ……あの毒草の名前も、解毒草も私達の力ではみつからない」
「そんな嘘だよ! 私がパパに会って解毒草を見つけてくる!」
家を出ようとした、私の手をママがとめた。
「……エルバ、待ちなさい! パパは魔法使いでもなく亜人でもない……魔族なの。それも前魔王の側近をしていたわ」
ママの口から衝撃的な事実が語られた……
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