百四十八話

1/1
前へ
/163ページ
次へ

百四十八話

 私の声に、サタ様がモフモフの羽でその壁を触った。しばらくして何かわかったのか、サタ様はウンウンと頷き、口元を緩ませた。 「うむ。エルバ、これは勇者が張った結界だな」 「ゆ、勇者⁉︎ モサモサ君?」 「いや、モサモサ君ではなく。ワタシが魔王のとき、最後に戦った勇者アークだな。この原っぱの近くに、最後の決戦地のシーログの森もあるな」 「勇者アーク⁉︎ シーログの森!」 「ほほう、勇者アークですか」 「あぁ長い年月、ワタシは鳥籠の中にいたから……すっかり、場所のことは忘れていたよ」  鳥籠に囚われていた魔王サタナス。そのサタ様が最後に戦った勇者というのは勇者アークだ。300年前――この原っぱとシーログの森で、勇者パーティーとサタ様は最後の戦いをした。その最後の戦いを邪魔したのが当時の聖女。  その聖女の子孫がヒロインのアマリアさんで――この小説を知る転生者。私はブルっと身震いした。 (あまりあの子とは関わりたくない。だって、モサモサ君とローザン君にたくさん迷惑をかけるし。精霊のキキに酷いことをしていた……かなりの危険人物だ)  って、ちょっと待って。勇者結界の中に私が探し求める、ククミンがあるんじゃないのぉ――⁉︎ 「じゃ、サタ様。この先に行けないの? ポーションの素材のククミンは? アレがないと、カレーが作れないじゃない⁉︎」  慌てだした私をサタ様とアール君はなだめる……それも嬉しそうに。 「この結界の中に入る事はできるが……ワタシたちが勇者結界に侵入すると、どこかの誰かにバレるのではないか? 今回、カレーはあきらめて、またにした方が良いと思う」 「そうです、またにしましょう」   「え、ええぇぇえ――! 楽しみだったのに。ポーションはわからないけど、カレーはすごく美味しいから……サタ様とアール君に食べてもらいたかった……」  だがここに入って、誰かに分かるのもちょっと嫌だ。  諦めて帰ろうとしたが。サタ様が何かに気付いたのか、結界をもう一度みつめた。 「どうしたの、サタ様?」   「この結界の中にワタシの愛剣――黒剣(こっけん)があるようだ。勇者アークはワタシを讃えて、ここに墓を作ったのか?」  ジッと結界を見つめるサタ様。もしかして愛剣を思っているのか。それとも当時の戦いを思い出しているのかな。 「サタ様はどうしたい? 私はバレてもいいよ。バレても、逃げればいいだけだもん」  ニシシと笑う私。 「そうですね、逃げればいいんです」  コクリと頷く、アール君。 「逃げればいいか。そうだな……本人が、愛剣を迎えにきたのだからいいな」  私達は3人見合って、頷いた。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

469人が本棚に入れています
本棚に追加