百五十話

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百五十話

 真っ黒な霧の中に。黒竜――ドラゴンがいた。あまりの迫力に口を開けたまま、足が止まってしまう。その姿を見たサタ様は苦笑いをして、私とアール君にむけて声を上げた。 「ハハハッ、顔が呆けすぎだ。エルバ、アール、早くククミンを見つけて帰るぞ!」   「あ、はい! 見つけてきます」 「ボクも、エルバ様の見つけるお手伝いしてきます」  2人が走っていく姿を見て、サタ様はドラゴンに手を伸ばした。その手にサタ様のドラゴンはスリスリして姿を消すと――そこに、地面に突きささる愛剣、黒剣があった。 「ああ、懐かしいな。我が愛剣よくぞ私の手に帰ってきた」  サタナスが剣を手にした途端、あたりの瘴気は全て消え去り――サタナスの足元に光文字が現れ、花々が咲き、花畑へと変わっていく。  サタナスはその文字に目を通し。 【魔王サタナス、君の剣を撮りにきたようだね。君の剣で荒れてしまった土地は、僕の魔法でキレイにしてあげるよ。なに気にするな。また会おう!】  読み終わった後、口角をあげた。 (ククク、勇者め。なんと面白いことをするが――だが、シーログの森までは、浄化されておらぬみたいだぞ……あいかわらず抜けておるな)  勇者の割と抜けた性格を面白がり、静かに見守るサタナスとは違い。ククミンを探すエルバとアールは周りを見て驚き、声をあげた。 「ヒェ――! 真っ黒のきもちわるい煙が消えて、青空と花畑に変わった?」 「ええ、変わりましたね」  クルクル周り、驚く2人をサタナスは優しく見つめた。サタナスが愛剣を手にできたもの、この勇者のはからいが見れたのも。全ての始まりは、エルバがワタシを見つけてくれたおかげだ。  エルバのおかげで、ここまで来れた。  ――感謝しかない。 「ありがとう、エルバ!」  サタ様が私にお礼を伝えて、幸せそうに笑っている。何かいいことがあったのかな? その姿に私も嬉しくなる。 「サタ様に喜ぶことがあってよかった! ククミンを探すから、もう少し待ってね」  サタ様に向けて、花畑の中から手を振った。サタ様は剣をしまうと、いつものモコ鳥に戻り、こちらに飛んでくる姿が見えた。 「ワタシも探すのを手伝おう。ククミンはどんな草だ」 「手伝ってくれるの? えーっとククミンは……えーっと」  博士、博士、ククミンでどんな植物? 〈ククミンとは、葉は細長い針のような形の植物です〉  ありがとう、博士。 「サタ様、アール君、クミンは細い針のような形の植物だって、博士が教えてくれたよ」   「……そうか、わかった。探してみよう」 「わかりました」
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