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一
私がこの異世界に来る前。
明け方、キャンプ場からの帰りスマホで地図をみながら、ほそいクネクネした山道を、キャンプ道具をくくりつけた原付バイクで走行していた。
「ここの山奥のキャンプ場に来るまで、山の道のりはきびしくて遠いけど。こんかいも癒されたわ」
アパートに戻ったら、スマホで撮っためずらしい可愛い花たちと、植物を図鑑で調べなくちゃ。
私はソロキャンプと自然のなかに咲く植物を眺めて、調べるのが好きだった。
(野草とか、すごい効能があったりして面白いんだよね。たまに毒草とかもあるけど……)
植物はおもしろい。
さて、次の休みにはどこのキャンプ場に行こうかなぁ〜フフン。
のんきに鼻歌を歌いカーブを曲がる直前、タイヤのスリップオンが聞こえ、こちらに向かってくる眩しい光。
え、ええ、ぶつかる!
「きゃあぁあ――――――!」
ぶつかったひょうしにバイクはガードレールを突き破り、私の体は宙に浮いた。何が起こったのかわからず。とっさに目の前の大事なキャンプ道具を入れた、カバンを胸に抱きかかえ。
あちゃ、これはたすからないかも。
な――んて、のんきにかんがえる余裕さえあって。まっいいっか、しかたがないと思う自分がいた。
冷たい両親にできのいい妹と比べられて。
家をでたくて高校卒業後に就職したけど、残業ばかりブラックまではいかない職場、口うるさい先輩たちにうんざりしていた。
もし――神様がいて生まれ変われるのなら。
「優しい両親。自然とふれあい、のんびりキャンプがしたいなぁ」ちょっと贅沢だけどお願いしまーす。と願った。
……
……
あれ?
…………どこからか、声が聞こえる。
……ちゃん、おねんねしましょうね?
しらない、女性の声だ。
こんどは男性?
「カルデラ、エルバは寝たのか?」
「ええ。いま、寝たところよ」
(……カルデア? エルバ?)
ちょっと待って。私、いま事故に遭ったんじゃと、パッチリ目を開いた。
(こ、ここ、どこ?)
みおぼえのない、部屋。
いくつもの変な動物がついた、吊り下げおもちゃ。
嗅いだこともない、香り。
病室ではなさそう。
「(ここは、どこ?)あ、う、ううっ」
お、言葉もうまく話せないし、小さな手?
二人は手足をばたつかせる、私に気付き。
「あ、……カルデア、ごめん。エルバが目を覚ました……」
「ほんと? あら、しかたのないタクスパパでちゅね」
「うーうー(パパ?)」
私の両親?
「エルバも、そうだって言っているわ」
「そんなぁ、エルバ……」
「あーあー」
「あなたを見て、エルバが笑ったわ」
「ほんとうだ笑っている。可愛い……なぁ、ほんとうに…………可愛い」
その声はだんだんと震えてきて、瞳には大粒の涙を浮かべた。
――え、な、泣かないでパパ? ママ?
手を伸ばしたけど小さな手では、ポロポロ流れ落ちる涙を止めることはできなかった。
「……とても、幸せだわ」
「ああ、俺だって……美人なママと、可愛いエルバのパパになれて幸せだ!」
そう、叫んだ後さらに号泣した。
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