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 お米を見つけた嬉しさに、稲を持ってキッチンで踊っていた。そこに夕飯の支度に調合室から出てきたママと鉢合わせした。 「「えっ!」」  コメ草を持って踊る私と、驚くママ。 「エルバ、どうしたの?」 「マ、ママ! えっと、これは何かなって振っていたの……」  ほんとうは踊っていたのだけど……みられて、すごく恥ずかしい。 「ああ、これは鬼人が作るコメ草という薬草なの」  「鬼人?」  ママに詳しく話を聞くと。街の北に住む鬼人たちはコメ草という薬草を栽培していて。これに熱を加え、トロトロにして"コメのり"というノリを作り。    木の皮から作られる鬼紙(キシ)といわれる紙も鬼人は作っていて、手帖、障子の紙、電気のかさ、提灯、雨よけのキシ傘などにキシとコメのりが使われると、教えてくれた。  私たちは人里から入ってくる高級な羊皮紙よりも、キシは安く書きやすくて使っている者は多い。  鬼紙(キシ)はーー和紙だ。  ママは前からコメ草が気になっていたらしく。  傷薬など薬とコメ草と物々交換してきて、コメ草から薬が作れないか実験するらしい。  実験も面白そうだけど。ママにコメを炊いて食べると"美味しいよ"と言いたい……だけど「その知識は何処で知ったの?」と聞かれるのはさすがにマズイ。    前世の記憶から話さなくてはならないし。  おかしな子だと思われて、嫌われたくない。  伝えたくてもいえない私に、ママは私の顔を覗き込み微笑んだ。 「エルバ、言いたいことがあったら、なんでもママに言っていいのよ」  と、言われて"コメを炊きたい"と思っていることを伝えた。ママは変に思うどころか「やってみましょう」と笑ってくれた。  ――私がおかしい子だと思わないんだ。    だが、ここで問題。コメを炊こうと言ったけど……コメ草からコメはどうとるのだろう?  博士、なにか知らない? 《コメ草の実の取り方は袋に実の方をいれ、振れば実が殻からコメが飛びでます》  お米とは違い、もみすり、精米とかいらなくて、振ればいいだなんて簡単だ。  すぐにコメは食べれる? 《そのままでもいいですが、コメは硬いので手を加えて食べてください》  え? 博士もコメの食べ方は知らないのか。  だったら、一緒に覚えていけばいいね。 《はい》 「ママ、コメ草からコメを取りだしたい。使ってもいい袋はある?」   「袋? わかった、コメ草の実をとるのね。待っていて、いま持ってくるわ」  ママが持ってきた袋に実の方をひと束入れて振った。ザラザラと袋の中に殻から飛びでるコメ。 「袋の中にコメがとれて面白い」 「ほんと、鬼人の人も米を取り出すとき"楽しい"って言っていたわ」  全てのコメが取れたみたいで袋の中を見ると、昔見ていた白っぽい半透明なお米とは違い、コメ草のコメは真っ白な粒だった。  とれたコメを測ると全部で450gあった。  えーっと、450gということはお米だと三合ぶん。  二合を炊くときは水が400だから、三合の水は600mlかな?  あとは、コメをお米のように研ぐ?  お水に浸す?  お米と同じでいいのか迷っていた。 「エルバ、何を悩んでいるの?」 「お、コメを研ぐか、お水につけるかを悩んでいるの」 「そうね。今回はコメを軽く洗って浸けずに炊いてみましょう。それで固かったら浸けてみるのはどう? ママが交換してくるから」 「ママ、そうする」  お米(450グラム)三合を炊く準備を始めた、コメをザルで軽く洗い、鍋に入れて水600mlいれてお母さんに渡した。 「でも、コメ草を炊いて食べよだなんて、エルバは面白いことを思いついたわね」  ……きた、この説明が難しい。 「あのね、ママ。……ママがいないときに、少しかじったら美味しかったの。だから……食べたくていろいろ考えて炊くのはどうかなって」  なんとも、ヘタな説明だ。 「あら、かじったのね。今回はママが手の届くところに置いておいたから悪いわね。エルバ、今度からはママに聞いてからにして欲しいわ」  私には博士がいて、コメ草が食べられると知っていたからからよかった。普通は知らない。もし、毒草だったら大変なことになっていたと、ママは言いたいんだ。   「わかった、ママ」   「でも、食いしん坊なところはパパに似たのね」 「パパ、すごい食べるもんね」 「エルバも負けていないわよ」   「私も?」 「フフ、食べるわよ」  魔法でコンロに火を付けて沸騰したら、弱火にし九分加熱して、火を止めてタオルに包んで十五分コメを蒸す。    ――そろそろ十五分かな? 「ママ、15分たったよ」 「いい、鍋の蓋を開けるわよ」 「うん」  お鍋の蓋を開けると炊き立てのお米に似た、甘い香りがした。色が半透明になってる……お米とは逆だ。 (炊き立てのお米と同じ、ふっくら、ツヤツヤでお米がたってる) 「すごい、炊く前のコメ草の粒は真っ白だけど……炊くと半透明になって艶が出るのね。硬さもちょうど良さそうかしら? エルバ、コレどうやって食べるの?」 「あっ、」    コメを炊くことばかりで考えていて、食べ方を考えていなかった……どうする、炊き立てのご飯はやっぱり塩おむすびかな? 「ママ、塩おむすびを作ろう!」 「塩おむすび?」 「私が先にやってみるからママ見ててね。ボールに水を汲み濡らして、手に塩を少し多めにまぶして炊き立てのコメを握るの……こうやって手のひらを三角にして、よっ、ほっ、こう握るの」  うわっ、握る感触もお米と同じ。  三角のおむすびができた。 「エルバは器用ね、ママもやってみるわ」  二人で炊いたお米を全部握った。  お皿の上で輝く、十個の塩おむすび。  次は、お待ちかねの味だ。 「「いただきます」」  炊き立て、握りたてのコメの塩おむすびを手に取り一口かじった。うーん……んんっ、味も見た目もお米に似ていた。  うまっ 「モチモチで甘くて、美味しい」 「ほんと美味しいわ……初めて食べる味ね」  エルバの畑でコメ草を一ページ分に増やせば。  いつでも炊き立てが食べられる、あ~幸せ! 《コメ草について内容が更新されました》  博士?   それは何? 《コメ草の実は腹持ちがよく、美白効果あり》  腹持ちが良いのはいいとして、美白効果?  食べれば肌が白くなる?  そういえばお米で作られた化粧水とか乳液、クリーム、パックなどがドラッグストアで売っていた。  へぇ、コメ草にも同じ効果があるんだ。
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