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七
夕方。仕事から帰ってきたパパにもおむすびを出したのだけど、水分が飛びおむすびは固くなっていた。
コメはお米と違い、水分が意外に早く抜けてしまうみたい。炊いたすぐに食べないとダメなのか。コメを炊く、メスティンはボックスにはいっているから、この実験は"エルバの畑"で採れたコメ草でやってみよう。
「ほんと固いわね。炊いたすぐは柔らかくて美味しかったのに」
「そうなのか、残念だな」
どうにかしてパパにも食べてもらいたい。
そうだ、キャンプでコンビニのおにぎりにだしを入れて、お茶漬けにするのが流行っていた。
それを真似て作ればいい。
「パパ、少し待っていて、ママは手伝って」
ママにコンロに火をつけてもらい、お鍋に乾燥ピコキノコと塩、水を入れて煮込み。そこに固くなったおむすびを全部入れ煮込んた。コメがダシを吸い柔らかくなったら、ニワトリに似たコロ鳥の卵をとき回し入れる。
「ママ、どう?」
「ピコキノコのダシがきいていておいしいわ」
このピコキノコは見た目、味は椎茸に似ている。
椎茸好きの私はピコキノコがほしくて、畑に植えようとしたが――博士に無理だと言われた。
なぜ? 畑のレベルをあげないとダメなのかな――残念。
卵が程よく固まり、よし、"雑炊"のできあがり。
ここに作っておいた、ダイダイコンの塩揉みをだした。
「パパ、出来たよ。食べてみて!」
出来立ての"雑炊"を食卓の真ん中に置いた。
パパとママ、私は雑炊をお茶碗によそい一口食べる。
パパとママの口元はニンマリ。
ピコキノコのダシがきいていてうまい。
これなら、いくらでも食べれる。
ダイダイコンもいい塩梅。
「エルバ、ピコキノコのダシがコメとコロ鳥の卵に染みてうまい。サラサラと何杯でも食べられる!」
「ほんと、炊きたてのおむすびも美味しかったけど。これも、おいしいわ」
パパとママは雑炊が気にいったみたい。
この日の私はキッチンでこそこそしていた。
それは新しい木の実をみつけたから。
ママに火を使わなければキッチンを使ってもいいと、許可をもらっている。アイテムボックスから、色々道具をだして実験中なのだ。
その、私の足元をクネクネ、スリスリするもふもふ。
「ちょっとアール君、尻尾を絡ませて邪魔をしないで」
『これは邪魔ではありません。危険な実験を止めているんです!』
自分を"監視役"だと言い。
いろいろ注意してくる、もふもふ黒猫さんである。
この――黒猫アール君との出会いは一週間まえ。
私は新作の"コメお団子"を食べながら、いつものエルブ原っぱにきていた。
「んんっ、この新作コメ団子おいしい。作った人に感謝!」
この国の実験好きな人々は――コメ草が食べれると知ってから。野菜などの具をたっぷり挟んだお焼き、せんべい、モチモチ団子……などなど新しい商品を産みだした。
いまにカツ丼、親子丼、牛丼とか、ドリア、シチュー、カレーができるかもしれないくらいの勢い。
まあ、カレーはターメリック、クミン、コリアンダー……とか? スパイスがいくつも必要だから無理かな。
薬草でそれらしい香草が見かかれば、話は別だけど。でも、小麦粉とバター牛乳で、ホワイトソースから作る、シチューはできるはず。
「ん? この赤い実――はじめて見る」
私の足元に一センチくらいの、丸い赤い実が落ちていた。
博士、この実は何?
《これはシュワシュワの実と言います》
シュワシュワ?
食べれる?
《食用ですが、一度に食すのは危険です》
なに、危険な食べ物?
しかし、赤いシュワシュワの実がどんな物か気になる。しばらく悩んだすえ、私の好奇心は勝ちカバンから水筒を出して洗い、その実をペロリと舐めた……。
ん、んん? 舌の上で"シュワシュワ"する。
このシュワシュワ、どこかで味わったことがある。
そこで、ピンと閃く。この実を水筒にいれたらどうなる? と、その実をいれてみた。水筒のなかでシュワシュワ音がしている。
匂いは? クンクン……。
「無臭か、いただきまーす!」
私はそれを一気に喉に流しこんだ。シュワシュワと、喉を炭酸を飲んだときの爽快感が過ぎていった。
「……ぬ、温い炭酸水だ」
冷えていたらもっと美味しかったのに。
その実を探すと、原っぱの西の奥に私の腰くらい木に、その赤い実はみのっていた。
木の名前を博士に聞くと"シュワの木"というらしく。タネを植えたエルバの畑にもシュワの木は赤い実をつけて育っている。
(ほぉ。ピコキノコはダメでも、畑には木は植えれるんだ……)
そうなのだとしたら。リンゴの木、ブドウの木などが植えれるかも。いまから見つけるのが楽しみ。
博士、効能は?
《整腸作用、腸内環境を整えます》
お通じが快適、便秘に効くんだ……なんて、女性にいい飲み物。
「んん、温いけど、ひさしぶりの炭酸!」
いつでも炭酸水が飲めると喜ぶ私は、どこからか視線を感じた。視線の先を探すと、もふもふな黒猫が草の陰からジッと私を見ている。
この子、いつからいたの?
ニャーとも鳴かず、半分だけ体をだして、まる見えで私を見ている。
君はそれで隠れているの?
お、この子の尻尾は二本だ。
もふもふ、ふわふわ、私はのほほんと黒猫に声をかけた。
「可愛い、君の名前はなんて言うの?」
その黒猫はいきなり"キッ"と膨らみ、私を威嚇して、バシバシニ本の尻尾を地面に打ちつけ。
『君は、また変な物をここで食べていましたね。少し前は毒に侵されて、この前は麻痺です。学習しないバカですか!』
と、いきなり"もふもふ黒猫"に怒られた。
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