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八
猫に怒られた……それよりも。
「……ね」
「ね？」
「猫が言葉をしゃべったぁ！」
ことへの驚きでいっぱい。
「知らないのですか？ きょうび、猫だって言葉くらい話しますよ」
「猫ちゃんも言葉を話す！」
そうなんだ、さすが異世界！
「ボソッ……嘘です」
「ん？ なにか言った？」
「いいえ、何も言っていません。それで、あなたのお腹は具合はどうですか？」
「私の、お腹の具合？」
「痛くないか聞いているのです。そんな得体の知れないシュワシュワする物を飲んで、お腹が痛くないか伺っているのです」
この、黒猫の琥珀色の瞳は私を心配していた。
なんて、優しい黒猫さんなのだろう。
「ありがとう猫ちゃん。この赤い実は食用だから平気なんだ。どう、あなたも飲んでみる？ びっくりすると思うよ」
猫ちゃんの返事を待たず。
私は水筒のシュワシュワをマジックバッグからコップを取り出して、そそいで置くと。シュワシュワ音がなるコップを猫ちゃんはいぶがしげに見つめた。
「これは、初めての体験。僕に毒は効きにくい……な、なにごとも体験あるのみ……摩訶不思議なシュワシュワ、いただきます」
やはり、猫ちゃんも初めては怖いらしい。
オズオズとピンクの舌で、シュワシュワをペロリ舐めたとたん、顔から猫ちゃんの毛がぶわあっとふくらみ、それは尻尾まで走り抜けた。
「お、おおーなんたる爽快感！ 面白い、舌と喉がシュワシュワします」
（いい反応！）
猫ちゃんはコップのシュワシュワをすべて飲んでくれた。そして、シュワシュワが気に入ったのか、ペロペ口と口の周りを舐めて、毛繕いをはじめた。
（猫の仕草って可愛い。私も猫飼いたかったんだ……もふもふって、みているだけて癒される）
この、猫ちゃんを撫で回したい。
家に連れて帰りたい。
一緒のベッドで眠りたい。
そして、朝、ぷにぷにな肉球で起こされたい。
「エルバ様、撫でてもいいのですよ」
猫ちゃんに心を読まれ、私の名前も呼ばれた。
「エ、エルバ様？ どうして、猫ちゃんは私の名前を知ってるの？」
「コメ草の食べ方をみつけた有名な方ですので、知っております」
私って、猫ちゃんにまで知れ渡るほど有名なんだ……知らなかった。
「僕は、かれこれ暇を持て余しておりました。実によい暇つぶ……あ、エルバ様とお知り合いになりたいです」
この子、私のことを"よい暇つぶし"と言ったな。
猫ちゃん可愛いから、いいっか。
「では、てはじめに僕に名前など付けてみませんか？」
「猫ちゃんに名前つける？ あなた名前がないの？」
「はい、生またときからありません」
生まれてからか……だったら、しっかりつけないと。
このときの私は。この名前付けがいかに重要で、大切なものなのか知らなかった。
「決めた、黒ちゃんは？」
「却下！」
え、ダメ出しありなの。
トム、却下。
ぽぽ、却下。
しげぞー、却下。
まめ吉、ここ、またゴロー、モチ太郎……全部ダメか。だんだんと猫ちゃんの額の模様がRに見えてきた。
「アール君は？」
「アール……いい名前です」
猫ちゃんは喜んでくれた。
「つぎに、人差し指を僕の前に出してください」
「人差し指？ はい」
何も考えず、人差し指をだすと猫ちゃんはその指をガブリと噛み付き、指から流れた私の血を舐めた。
「え、ええ？ 私の血を舐めた？ な、なんで？」
驚く私と猫ちゃんの真下に、真っ黒な魔法陣が現れて消えた。
「魔法陣？ ……アール君？ いま、君はなにをしたの？」
「フフ、これからよろしくお願いします。ただいま、エルバ様と僕――アール。使い魔としての血の契約は完了いたしました。これから僕をよろしくお願いします――エルバ様』
血の契約？
使い魔？
「ちょっと、君はなんで、こんな大変そうなことを勝手に決めちゃうの。解除の方は？」
「エルバ様、申しわけありません」
「知らないの？ そ、そうだ、ママに聞けばわかるかな？ アール君、家に帰るよ！」
「はい、エルバ様。えへへ、初めての名前とご主人です」
「こら、喜ばないの！」
使い魔となったアール君を脇に抱えて、家まで走った。
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