失恋からの

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「……ただ、好きだっただけ」 マサ君のことが。 たまにじゃなくて毎日を一緒に過ごして、ささやかでいいから幸せを感じたかった。好きな人と幸せになりたかった。 「それだけなのになぁ……」 横になってるあたしの顔の目から、涙がカウンターに向かって流れ落ちた。目の前が霞んでよく見えない。 男は何も言わず、こっちも見なかった。 それどころかお酒を飲んでる間もあたしに相槌は打つものの、マサ君を貶すようなことなどは決して口にしなかった。あたしの好きになった男だからか。 慰めてやると言いながら、慰めてくれるような言葉を言ってくれた記憶もない。 〝好みだから〞 車の中で言ったあの一言だけ。それ以外はホントに何も言ってくれず、ただ煙草を燻らせお酒を口にするだけだった。 視界の先でぼやけているのに、男が黒髪の黒ブチ眼鏡の男だとわかるくらいのオーラが漂う。この男は、いったいなんなのか。
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