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恥ずかしさと気まずさで視線を逸らしたあたしは、まだ何も口にしないままでいた。
「来いよ」
答えないあたしの前でスッと立ち上がったその人は、あたしを見下ろし手を伸ばして来た。その手をボンヤリと見つめる。
「どこ、に…?」
ようやく戸惑いを口にしながら、無意識に差し出された手に手を伸ばしていた。握ったその人の手は、思ったより温かかった。
「自棄酒とか?」
ぐいっとあたしの手を引き上げながら、眼鏡の奥の目を細めフッと笑ったその人は、あたしから手を離しくるりと身を翻すと歩き出した。
その後ろ姿を見つめながら、ぼーっと突っ立っていると振り返ったその人が、「来ねーの?」と催促する。まだちょっと頭が働かない。
よくわからないけど、まぁいっか。
今日はひとりでいたくない。ひとりでいるのは、辛くて耐えられそうにない。まったく知らない人だけど、ひとりでいるよりずっといい。そんな気がして、その背中を追いかけた。
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