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また、グラスが空になる。男にグラスを差し出して次を催促するけど、男はもうお酒を注いではくれなかった。
あたしを一瞥して「もうやめとけ」とグラスを取り上げて、立ち上がりカウンターに入っていくと、代わりに冷たい水を出してきた。
戻ってきた男が、また隣に腰を下ろし煙草に火を点けた。その様子をぼーっと上目遣いで眺める。斜め下のこの角度から見ても絵になるとか……。
「高級料理って毎日はしんどい?」
カウンター上に、男のほうを向けて置いてる頭。その前に置かれた冷水の入ったグラスを、ぼんやりと見つめながら呟いた。
「さぁな。高級料理とか毎日食えねーし」
「………」
あたしだって食べられない。
「もし食えるようになったら、アイツみたいなこと言ってみてーな」
煙草の煙を吐き出しながら笑った男の視線は、あたしの方じゃなく何処とも言えない宙をにある。
アイツ……マサ君のこと。男を見つめ、マサ君に対する皮肉なのだと気付いた。
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