ワンナイト

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あいつが誰のことなのか、わからない。良かった、ってなんなのか、考えようとがんばってみるのだけど、ホントによくわからない。すでにあなたで、いっぱいいっぱいなのに。 「あいつ?よかった、って……?」 「俺のキスじゃ物足りねぇ?」 ちゅっと音を立てながら、わざとらしく焦らすように軽く唇に触れスッとまた離れていく。待って、と追いかけそうになる。 ものたりない? なに、言ってるの。 「へ、なっ、じゅーぶん。たりて、」 「でもまだ余裕あるよな、別のこと考えてんだから」 いじわるな顔をして男が笑うのだけど、その顔がまた当たり前にあたしをドキドキさせる。 べつのことなんか考えてない。 あなたのキスを、考えてたの。 あなたのキスの所為で、考えてたの。 なんでそれがわからないの。 なんでそこは伝わらないの。 なんであたし、こんなになってるの。 「やっ、ちがっ、」 余裕なんか最初からない。もうすでにキスだけで、おかしくなりそう。キスって、こんなすごいとか。ホントにビックリしている。
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