首を洗って待っていて

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 声がもれる。焦りが、だめかもしれないと諦めを連れてくる。  諦めてはだめだ。考えろ。自分を叱咤する。  昔はどうやって入れたのか。昔と今と何か違うのか。子どもではなくなってしまったから? けれど大人でも神隠しにあうことはある。何か、今と昔と変わってしまったこと。分からない。分からない。  子槻がそこにいるのは、分かっているのに。 「子槻さん! いるのでしょう? 戻ってきてください!」  なりふり構わず、叫んでいた。 「戻ってこないのならわたしがそちらに行きます! 通してください!」  滑稽でも、けやきの向こう側へ足を踏み入れる。何も、変わらない。  どうして。どうして。どうして。 「子槻さんのばか!」  口をついていた。 「何も言わずにいなくなって、あげく記憶まで消して、どういうつもりですか! わたしはまだあなたのことを許してないし、わたしは、わたし、は」  息がつまった。涙と嗚咽が突き上げてきて、続けられなかった。 (わたしは、あなたに、会いたい)  涙が頬に伝って、むずがゆくて拭った。こんなことをしていても意味がない。天野上原へつながる方法を。
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