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わたしを全部あげるから
「そ、そういう意味では」
瞬間、子槻の表情が悲しげにしぼむ。
「違うのか? ではどういう意味なのだ」
春子は言葉につまる。子槻のことはもちろん嫌いではない。むしろ好きといっていい。けれどこれは恋情なのか? 生きていてほしいと思ったり、近くにいると気持ちが温かくなったり、微笑まれると胸がきゅっとなって微笑み返してしまったりすることが。
「その……で、でも子槻さんだってわたしを妻に妻にと言っていますが、親愛の情でしょう? 父のような……こ、恋ではなく」
子槻は目をしばたたいて、縁側に手をついてうなだれた。
「何と……今までずっと伝わっていなかったのか……猛省せねば……」
子槻は顔を上げて、引きしまった表情で春子にほんのわずか体を寄せてきた。春子は固まる。
「春子。わたしは春子のことを好いているし、親愛や父性などではない。これは、恋だ」
体の横に、子槻の手がつかれる。
「わたしはひとりの男として、春子を好いていて、妻にしたい。春子はわたしのことを好いていないのか?」
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