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「ねえ、俺、告白されちゃった」
「告白じゃねえだろ。通報だろ」
昼のピークを過ぎた店内に、客の数はまばらだ。在庫の補充を確認する凪に、ピンチヒッターのメンバーがイライラと答える。担当じゃない曜日に呼び出されて機嫌が悪いのだ。凪はかまわず話しかける。
「動画けっこう送られてくる。夢に向かってがんばってるんだってさ。プロポーションもいいし、才能あると思わない?」
「女子高生に手出すクソ野郎じゃん」
「ちがう、ちがう。女子大生。二十歳。ギリギリセーフ」
「お前と付き合って何が楽しいんだか」
「たとえば、さ。悩んでいる時に話をひたすら聞くっていう才能がある。俺は」
「ふーん。てか、就職どうすんの?」
「あと一年踏ん張るって」
「ふーん。みんな何かになりたいのかねえ」
同僚はぽつりと言って、奥のカウンターに引っ込む。凪はレジ棚の釣り銭を確認する。空から金が降ってくればいいのになあと妄想しながら、この日の仕事を終えた。
「まゆの踊ってるジャンルって何?」
恋人を自宅へ送る帰り道、凪は聞いた。まゆのしなやかな手足を毎日鑑賞しているわりに、自分は無知であるのをそれとなく気にし出した頃だった。
「うーん、凪はあまりダンスについて知り過ぎることないよ。私、博識家きらいなの。凪は頭でっかちにならないで」
少しつり気味に上がった目もと、よく整えられて綺麗な体裁を保った眉、口調からにじみ出る溌剌とした声が、まゆの手垢のついていない若さを強調していた。
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