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「俺はずっと素人でいいの?」
「そうそう。私のお客さんだから。私だけの」
まゆは満足そうに、こちらに腕を絡めてくる。彼氏としての優越感を感じるとともに、ある種のしこりのようなものが凪の心に巣くう。
(いろいろと、憤ってるんだろうな。自分にも人にも)
横断歩道を渡りながら、まゆがこちらをじっと見上げているのに気づいていた。
「凪こそ、いつも何飲んでんの?」
「ああ、あそこの自販機でしか売ってないマイナーな飲み物」
「レアもの?」
「そう、売れ筋じゃなくて一点もの。みんなの口には合わないんだよなー」
「私の口にも合わない?」
「まゆには難しいだろうなあ」
ふうんと言ったきり、まゆは会話をやめた。
信号機が点滅する。小走りで歩道を渡り終え、何となく話を続けるのも気だるい感じがした。
まゆの手が腕から指先に絡み始めていた。
何となくそれっぽい行為をする空気になったのを察知した凪は、恋人の頭を自分の方に引き寄せた。
鼻筋にそっと唇をのせた後、ゆっくりと下って、口にたどり着いた。
数秒、柔らかな時間を楽しんだ。
幸せな瞬間が自分にはあった。
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