第一章 *冬*

13/18
前へ
/41ページ
次へ
 甘えられる異性に思いきり甘えて、最後にとんでもない奈落の底まで突き落とされたいという劣情。立ち上がれなくなるくらい倒れ込んで、溺れてすがりつきたいという、消し炭のような欲望が。  常に自分の内に眠る動機のままに生きてきたつもりだ。これからもずっと遊ばれて、受け入れられて、そして五月女凪という形を溶かして分解され続けるだろう。理念も概念もいらなくなるほど、這いつくばりたかった。  口を離すと、まゆの瞳にいつにも増して暗い陰が差していた。 「……まゆ?」 「私はおかしい?」  まゆの瞳は何かに揺らめいていた。  熱いものを感じた。火。自分が付き合う恋人はいつも何かに燃えていた。火だと思った。自分自身へ向けるものもいれば、社会に向かっているものもあった。それは形容しがたい感情だった。まゆの中から身体を超えて噴き出しているその様が、凪にはわかっていた。 「もう一度言うけど、まゆは何に怒ってるの?」  恋人は再び口をつぐんでしまった。 「現状? まゆは踊ることで何を伝えたいの」  ひりっとした感覚にふれた。  ああ、苦手だな。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加