第一章 *冬*

15/18
前へ
/41ページ
次へ
「まゆの理想の通りに生きてあげたいよ。ああしてって言われたら、いくらでも叶えるし、何も知らないファンでいてほしいのなら、ずっとそうしててあげる」 「私は」  言葉が途切れた。  重苦しい空気が流れる。  時間だけが無常に過ぎていく。 「何がしたいの」  凪は尋ねた。  まゆは言葉を失っていた。  この子の中に何が眠っているのか、何にわだかまり、何に心動かされ、何を手放せるのか、凪は指し示すことをずっとためらっていた。  凪の方もわかっていたのだ。  まゆは凪を心のよりどころにしている。まゆが満たされれば、自分たちの関係も終わることを。  まゆは夢が叶えば旅立てばいい。けれど凪は空っぽだ。凪が何かで満たされることは、凪自身を慰めるものは、ないのだ。凪に自分を説明できるものは備わってないのだ。  強いて言うなら、それは女か。  凪は女に――異性に、すべてを求めていた。  ずっと誰にも伝えていないことがあった。  凪は、子どもの頃から、真夜中に外出していた。  保育園から家に帰る時。小学校から家に帰る時。  凪は一人だった。  両親はいる。凪を送り迎えし、食事を作り、寝床を提供していた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加