第一章 *冬*

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 凪にほしいものを買い与えるようになった。スマホがほしいと言えばすぐに契約し、ゲームがしたいと言えば専用の機器を探し出し、小遣いを上げろと言うと、額は二、三割増しになった。  十五歳になる頃、両親からもらえる金額が月四万を超えた時――凪は、ねだるのをやめた。  おそらく、あの不思議な冷え切った家は、二人の不仲が原因だろう。親は共働きだ。仕事のことや、互いの心の距離、育児ノイローゼの問題もあったのだろう。凪は自分の家族を責めたりはしなかった。二人も人間だ。追いつめられている時、人は自分が情を失っている事実に気づかない。  誰かに抱きしめられたかった。  その対象がなぜ、女になるのか。  父親でもよかったのに。  求めているのは、なぜ、母親だったのだろう。  まゆが自分に応えてくれない理由は、どこにあるのか。  知り合った女たちは、どうしてみんな、離れていくのか。  凪にはわからない。  凪は空っぽだからだ。 「もう、いい」  まゆの瞳から涙がこぼれ落ちた。 「凪にはもう何も求めない」  掴まれている腕からまゆの力が抜けていく。  恋人の心が、自分の懐からすり抜けていく気配がした。
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