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第二章 *早春*
まゆのSNSに一種の兆しを感じ始めたのは、冬の終わりに差し迫った季節のことだった。
その頃、凪は店舗先でも異動が決まって、交通の便が少々悪い場所へ配属されていた。まゆのダンス練習を観察し続けられていたY公園へ行くのもままならず、それなりに忙しく、気だるい毎日のサイクルに戻った。しばらくぶりの平穏さが心地よかった凪の目に、まゆの個人動画の再生回数の回り方が、いつもと違って見えた。
今までなら、ある程度の数字を突破するのに一定数の時間を要していた「壁」が、少しずつ薄くなってきている気がしたのだ。
徐々にまゆのファンがついている。
凪は確信した。
だがそう思ったところで、あれ以来まゆとは一度も連絡を取っていない。ほぼ関係は途絶えている。もはや自分と彼女をつなぐ糸は切れているのかもしれない。凪はほとんどあきらめていた。
今さら何か言ったところで。
凪は動画サイトを閉じ、出勤の準備を始めた。
「彼女と別れたん?」
異動先でさっそく仲良くなったメンバーと休憩時間の談笑をし、相手から痛い言葉をかけられ、凪はどきりとした。
「えー、自然消滅かなあ」
視線を泳がせて半笑いを浮かべる。
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