第二章 *早春*

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「怒らないから言えよ」 「えー、じゃあ言うけどぉ。――死んでるじゃん。今のあんた」 「もとからこういう顔だっつの」 「最近ますます干上がった男みたいに見えるよ」 「人を魚に例えるな」  言葉の応酬をしばらく交わした後、休憩時間の終了を知らせるタイマーが鳴った。  さて、仕事仕事、と新田は逃げるように席を立ち、さっさと持ち場へ戻っていった。凪も立ち上がる。  最初から、心なんて死んでるし。  流されるのが性に合っていた。木枯らしに吹かれ巻き上がる落ち葉のかたまりのように、何も逆らわず動かされず、時代の潮流に押されるまま生きるのが好きだった。 (だってそっちの方が楽しくない?)  なぜみんな抵抗するのだろう。上へ行こうとするのだろう。ここではないどこかへ、居場所を探しに出かけるのだろう。  俺にはわからない。周りの意思が。  凪はレジのカウンターに立ち、事務作業に集中した。    *
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