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足がY公園の方角へ向かっているのは自覚していた。
新田にかけられた言葉を反芻しているうちに、凪は知らずと電車に飛び乗っていた。各駅停車、青梅行き。
吊り革に掴まる。窓越しに、高速で流れ去る民家が見える。一つ一つの家庭に、それぞれの家族が帰って、食事をとって眠りについて、朝になれば家を出ていく。それが当たり前のようにくり返され、これからもくり返されていくと信じて疑わない。
胸の奥がきゅっとなる。
自分が何を欲しがっているのか。
渇望しているものを自覚してないほど子どもではなかった。けれど手を伸ばせる容易さでもないことも、充分承知していた。
外の景色はだんだん中規模のビルやショッピングセンターに移り変わっていく。目的地が近づいている。行きたくないのに、行きたいと望んでいる。
出会わなければよかったとさえ感じていた。
蝶野まゆを、知りたくなかった。
電車は駅に到着する。
懐かしい街並みと、どうにも垢抜けないホームの外観。
凪は足早に階段を下りる。エスカレーターを使うのもじれったかった。
Y公園には先客が何名もいた。知らない間に有名スポットになったようだ。夜の初めの時間帯だからか、あの時散歩をしていた季節柄、たまたま空いていただけだったのか。
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