第二章 *早春*

7/12
前へ
/41ページ
次へ
「何か、変な感じ。どれくらい会ってなかったかわからないのに、あんたを目の前にすると自分が自分じゃなくなる」 「……と、いうと?」  それとなく聞くと、厳しい叱責が飛んできた。 「喧嘩したんじゃないの、私たち? そのままどっちも連絡しなくて、自然消滅だって思って……」 「うん、俺も思った」 「じゃあ、どうして来たの?」 「わからない。俺にも説明がつかない」  まゆは深いため息をついた。落胆の色と期待のまなざしが込められた反応だった。 「やめるの、私」 「…………え」  一瞬、自分の耳を疑った。  だが間違いなく、蝶野まゆはそう言った。 「夢を追うのはもうやめる。ダンスは趣味で続けることにした。就活しなきゃ。来年三年生だし」 「ハタチじゃん」  息せき切ってこぼれ出すわけのわからない感情に押されて、凪は反論した。弱気になる彼女の顔を見るのが我慢ならなかった。 「キラキラの成人じゃん。ピチピチの女子大生じゃん」 「……バカなの? その世界じゃもう遅いんだよ」 「小便くさいガキなんか相手にするな。色気もへったくれもねえ小娘になんか真似できない、お前自身の魅力ってもんがあるだろ」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加