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まゆの瞳は冷え切っていた。凪が強気な姿勢を見せれば見せるほど、かえって表情が暗くなっていく。
(何でだよ)
一向に理由が見当たらず、凪は感じたことのない不安と憤りを抱いた。
「やたらと私の肩持つね」
まゆは拗ねたように顔をそらす。
「そりゃあな、恋人だし」
当てつけのように言ってやると、今度こそ重い空気が流れた。凪が最も苦手とする、張りつめた意識のせめぎ合いが、肌に痛かった。
「何か言えよ」
「凪にあげられるものは、もう何も残ってない」
「……は? 何だよそれ」
すごむ勢いで、強く尋ねる。まゆは沈黙を貫く。
埒が明かない。凪は正直な気持ちを伝えることにした。
「残念だな。お前には……さ」
いざ言葉に出すと、胸にちくりと空しさが刺した。
「パフォーマンスアートの精神を感じたのに」
彼女がこちらに顔を向けた。
すがるような瞳と、その奥に隠れる、凪への熱い情欲が見て取れた。
何かを必死にこらえている。まゆの中から強い思いが熱となって放出されている。
「そっちこそ」
まゆは泣き声に近い声色で訴えた。
「何でも話してほしかったのに」
(――――ああ)
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