第二章 *早春*

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 隠しごとはなぜバレるのだろう。 「夜に、眠れないのは……。いつから……。子どもの時からずっと、続いてるなら、どうして病院に行かないの……? 私じゃ癒せないなら、今になって会いに来ないでよぉ……」  まゆは子どものように泣きじゃくっていた。顔を覆った手のひらがひどく震えている。  凪は知らずと空を見上げた。  冷たい風。暗闇を灯す常夜灯。今日は晴れてるのだろうか、星がチカチカと瞬いている。こちらの都合のために天気は悪くなってくれず、肩を濡らす雨は降らない。 「毎日飲んでるあれも、教えてくれない……」  消え入りそうにつぶやいたまゆの台詞に被せるように、凪は告白した。 「生姜スープなんだ」  途端、まゆはきょとんとする。無防備な表情を、ああ、可愛いと、素直に思えた自分に驚きを感じる。  凪は続けた。 「寒くなったら、あそこの自販機で発売するんだ。温かい飲み物で、睡眠作用の効く生姜がすげえいっぱい入ってんの」 「睡眠作用……」 「うん。……俺はね」  幼少の頃の、自分に背を向けている両親の姿が、脳裏に浮かんだ。 「睡眠障害なんだ」  夜は、凪にとっての避難場所だった。
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