第二章 *早春*

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 定職にも就けない、一日の生活を生き抜くことがやっとの、低賃金労働者の。 「この先どうなるかわからない。でも今、凪の過去の一部を知れてよかった。凪のことが見えた気がして、嬉しくなった。もっと教えてほしい。私にいろいろな面を見せて」  どんな言葉を伝えればいいのか、今まで凪は熟知しているはずだった。こう返せば相手は気持ちよくなるだろう、納得するだろうと、人の感情を受け取るのが得意だと思っていた。  口ごもる自分は、正直かっこ悪い。取り繕う術も忘れた。 「まゆ」 「ん?」  目の前の女は柔らかく微笑む。どんなタレントよりも美しく。 「キスしたい」  まゆは笑った。心から幸福そうに。 「恥ずかしい台詞だね」 「うん、俺もそう感じる」  互いに笑い合った後、甘くこそばゆい雰囲気が流れた。  彼女が目を閉じる。  凪は一歩ずつ近づいていった。  相手の身体にふれた。  自分とは違う柔らかな肌触り。手を握った。細くて長い指だった。俺のよりずっと小さいんだなと、心に疼く密かな色欲を感じた。この上ない愛情も。  まゆの手を握りしめたまま、唇にそっと、自分のものをあてがう。
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