第二章 *早春*

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 反応を探るように、機嫌をうかがうように、慎重に。  まゆは凪のキスに応えた。  受け入れられた。  言いようのない寂しさが埋まったような、包まれるような安心感が、染み渡った。 (ありがとう)  恋人を抱きしめた。今度は強く。  足りない、与えられない、持っていないと嘆いていた今までの己を、存在ごと肯定してもらえたかのような、満ち足りた感情が胸の内に迫った。枯渇していた心が、深い川底へ沈んでいく。  まゆの腕が背中に回った。  細い力だった。懸命にこちらを求める温もり。  与え返したいと、生まれて初めて凪は思った。  その瞬間、自分の中に棲むどうしようもない小さな男の子が死んだと、悟った。  冷たい夜風が吹いた。  なんてことのない寒気。  凪とまゆは、支え合うように互いの熱を抱きよせていた。
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