第三章 *初夏*

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「うちの事務所に所属してみませんかって」 「スカウトか、なるほど」 「私の動画、見てくれたの。それで、オーディションを受けさせたいから、うちと契約を結んでほしいって先方が」 「どこの事務所?」 「Aプロダクション」 「中規模の芸能事務所だな。まゆ、やったじゃん!」 「ありがとう。すっごく嬉しい」  まゆはほっとしたように声を弾ませる。 「凪が喜んでくれてよかった」 「自分のことのように嬉しいよ」  思えばずいぶんと素直になったものだ。自分で発言しながら笑えてくる。 「それでね」  まゆが続けた。 「凪に、会いたくなって。直接話せるかな?」  声色から、そこはかとない憂いを凪は感じ取った。手放しで喜んでいるかと思いきや、恋人は何やら気がかりな案件でもあるらしい。 「わかった。今どこにいる?」 「商店街抜けたところの並木通り」 「すぐ向かうよ。確か近くに児童公園があったから、そこで話そう」 「うん。待ってる」  場所を確認し合い、まゆの方から電話を切った。
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