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日の入りがずいぶんのびたと、公園の敷地内に入ったとたんに凪は気づいた。夕方六時近く。児童は見当たらなかった。小さな滑り台、ブランコ、二人掛けのベンチ。面積も広くなく、一世帯分がひっそりと遊ぶような、路地の途中に申し訳程度に設置されたのがわかる場所だった。
まゆは、ブランコを囲う柵のふちに腰かけていた。凪を見つけると、小さく手を振る。凪も振り返して、まゆの隣に座った。
「おめでとう、まゆ。……それで、どうした? 浮かない顔してんじゃん」
まゆが言葉に詰まっている様子を見て、それとなく手にふれる。恋人は嬉しそうにはにかむ。胸の内を甘やかな衝動が駆ける。
夏の匂いを感じさせる、ぬるい風が吹いた。住宅群の隙間から沈みかけの太陽が覗いていた。
「とっても幸せな時間をもらえている気がするの」
言葉と裏腹に、彼女は悲しげに微笑んだ。
「私、ずっと夢だった。踊るのが好きで、みんなが盛り上がってくれるのが嬉しくて、これからはもっと大勢の人たちを幸せにしてあげられるんだって予感がして、今、無敵なの。オーディション、絶対に合格してやる」
「その意気だよ」
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