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凪は包むように手を取る。
二人は連れ添って、並木通りをまた歩き出した。
春先に花を咲かせていた街路樹は今、生命力の強そうな緑の葉を枝先にまで茂らせている。
道路を行き交う車が、ヘッドライトを点け始めていた。日が完全に沈む間際の時間まで、二人は当てもなく歩いた。
凪は足を右に向けて、歩道橋の方へ進んだ。まゆもついてきて、階段に足をかける。
「俺は、就職しようと思ってる」
まゆは口をつぐんだまま、凪の言葉を聞いている。
「学歴なんかねえけど、契約だろうが何だろうが、職をもぎ取る。死んだように生きるのは、もうやめる」
「だから最近ずっと黒髪なんだ。前は茶髪にピアスまで開けてたのにね」
横から茶化すような声をかけられ、凪は照れ臭くなる。
二人は階段を上る。上り続ける。
「これから、どうする?」
まゆが問いかけた。
橋にたどり着き、平らな道を真ん中まで行った。柵の向こうから見える景色はいつもと変わらない。けれど地平にわずかに残る橙色の日の名残り、灯り始めた街灯、過ぎていく人の流れが、今、鮮明に脳裏に焼きつきかけている。
写真を、撮りたいと思った。
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