第三章 *初夏*

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 凪は包むように手を取る。  二人は連れ添って、並木通りをまた歩き出した。  春先に花を咲かせていた街路樹は今、生命力の強そうな緑の葉を枝先にまで茂らせている。  道路を行き交う車が、ヘッドライトを点け始めていた。日が完全に沈む間際の時間まで、二人は当てもなく歩いた。  凪は足を右に向けて、歩道橋の方へ進んだ。まゆもついてきて、階段に足をかける。 「俺は、就職しようと思ってる」  まゆは口をつぐんだまま、凪の言葉を聞いている。 「学歴なんかねえけど、契約だろうが何だろうが、職をもぎ取る。死んだように生きるのは、もうやめる」 「だから最近ずっと黒髪なんだ。前は茶髪にピアスまで開けてたのにね」  横から茶化すような声をかけられ、凪は照れ臭くなる。  二人は階段を上る。上り続ける。 「これから、どうする?」  まゆが問いかけた。  橋にたどり着き、平らな道を真ん中まで行った。柵の向こうから見える景色はいつもと変わらない。けれど地平にわずかに残る橙色の日の名残り、灯り始めた街灯、過ぎていく人の流れが、今、鮮明に脳裏に焼きつきかけている。  写真を、撮りたいと思った。
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