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まゆが愛おしそうに聞いているのがわかった。
「どれほど理不尽なことがあっても、誇れるものなんか何もなくても、ステージだけは美しかった。楽しかったから。感動したから。スターになりたい夢を追いかけるやつらを、本当はずっと、応援していた。意志の強さを、分け与えてもらっていたから」
日が沈む。ともに過ごした日々が沈む。
凪は目もとを拭い、恋人と視線を合わせた。
「俺は、ダンスに賭ける蝶野まゆが、好きだよ」
もう一度、手を絡め合う。互いの顔を正面から見つめる。
世界に二人だけしかいないような錯覚を感じるほど、まゆの瞳は艶やかにきらめいていた。
頬にふれた。
他には何もいらない。
彼女が目を閉じる。
柔らかな温かさに唇を当てる。そっとついばんだ後、もっとほしくなって二度、三度と愛情をねだった。まゆは応えた。熱と人肌の温もりが、凪の悲しみを満たしてくれた。
ずっと続いてほしいと願った甘い時間も、永遠に続くと思い込んでいた己の哀れさも、終わるのだと、凪は知った。その事実は救いにもなったし、呪いにもなった。けれどそれでよかった。自分はもう閉じていない。
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