第一章 *冬*

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 もちろん、場所の確保も戦いだ。いかに有利な練習時間と邪魔されないスペースを獲得できるかが、夢を追う者たちの力試しなのだろう。  つまり、夜も更けた頃に身体を動かす彼女は、いうなれば、場所取り合戦に負けたともいえる。 「難儀なものだなあ」 「五月女が難しい言葉を使ってる」  凪がひとりごとをつぶやくと同時に、バカにしたような視線が横からぶつかってきた。同僚である。 「だって夜から朝までずっと動いててさ。いつ休んでんだろう」 「昼に寝てるんじゃないの」 「うーん、どうなんだろうなあ」  商品の陳列棚をチェックしながら、最近ハマっている趣味を同僚に語る。悪趣味な男だと、同僚はますますバカにする視線を投げる。  客の応対を終えた後、あんたはさー、と小言を言われる。 「冷めてるし、意地悪だし、どうしようもないし」  言われた凪は、毎回くり返される文句を右から左に聞き流しながら、本社から押しつけられた売れ残りの商品をどうさばくか、考え始める。 (何か雰囲気変わった?)  数日後、いつも通りに観察を続ける凪の目に、今日の彼女は身体の動かし方が違って見えた。
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