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その日、私は夕飯の支度をする母の背中に向かい男子たちに言われたことを話した。
「あのね、うちのクラスの男子ひどいんだよ。お前は橋の下で拾われたんじゃないかって、ショッピングモールで拾われたんじゃないかって言うの」
すると母は勢いよく振り向き、今まで見たことのないような形相で私に詰め寄った。
「美恵ちゃん、そんなこと言われたの? 言ったのは何ていう子? 名前を教えなさい、お母さんその子の家に電話するから。いくら子供でも言っていいことと悪いことがあるわ!」
私は慌てて母を止めた。そんなことをしたら余計にいじめられるに決まってる。
「ううん、いいのいいの、ちょっとからかわれただけ。ちゃんと『そういうこと言うの止めて』って言ったから。きっともう言われない。大丈夫だよ」
「本当に? 美恵ちゃん今までもそんなこと言われてたの?」
私は首を横に振って言い訳した。
「違うの、今日初めてそんなこと言われて少しびっくりしただけ」
母は今一つ納得していないようだったが電話をかけるのは止めてくれた。
「もしまたそんなことを言われたらすぐお母さんに言うのよ。美恵はお母さんとお父さんの大事な子なんだからね」
そう言って私の頭を撫でると母は優しく微笑む。私は胸につかえた塊が溶けていくのを感じた。
(そうよ、私はお母さんの子。大好きなお父さんとお母さんの子だ。当たり前じゃない。バッカみたい)
それ以来学校でいじめられても家では話さないようにした。大好きなお母さんが怒ったり悲しんだりするのが嫌だったから。その頃からだと思う。私が奇妙なものを見るようになったのは。
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