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その年の夏、クラスで幽霊話が流行った。テレビでもよく心霊特集などが放映されており御多分に漏れず私も興味津々。でも我が家ではほとんどテレビなど見なかったので友達の家に遊びに行った時に見る程度だった。その日も夏休みということもあり友達の家で心霊特番を見てキャーキャー言って過ごして帰った。その事を母に話すと「幽霊なんているわけないでしょ」と笑う。なぜだかその言い方にむっとした私は珍しく言い返した。
「そんなことないよ、いるよ。私見たもん」
実は元々見えていた白いふわふわとしたものがこの頃には人の形に見えるようになっていた。とはいえハッキリと見えるわけではなく、何となく髪の長い女の人だというのがわかる程度だったが。
「美恵ちゃん、きっと夢を見たのよ。幽霊なんていないの。さ、この話はお終い。お夕飯にしましょ」
ここで私はつい口走ってしまった。
「いるんだよ。女の人。髪の長い女の人がいるの」
その瞬間、母は何ともいえない表情を浮かべた。子供だった私にはただの怖い顔としてしか映らなかったが、あれは明らかに恐怖と憎悪が入り混じった顔だ。
「でもね、怖くないの。何か優しい感じがする」
次の瞬間、珍しく母が大声を出した。
「美恵、いい加減になさい! 母さん嘘つきは嫌いよ」
頭ごなしに嘘だと決めつけられ反発心を覚える。どうしてちゃんと話を聞いてくれないのだろう。
「嘘じゃないもん。ホントだもん」
頬を膨らませる私を見る母の目には今まで見たことのないような光が宿っていた。私は冷や水を浴びせられた気分で俯く。
「今度そんな話したら母さん許さないからね」
「……ごめんなさい」
きっと母はこういった類の話が嫌いなのだろう。それ以来私は不思議な影について口に出すことは止め、全部勘違いなんだと思うようにした。すると次第にあれだけ見えていた不思議な影が見えなくなり、夜寝る前に聞こえていた微かな声も聞こえなくなっていった。
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