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3.妹の誕生
「美恵ちゃん! 聞いて! 美恵ちゃんに弟か妹ができるのよ!」
小学三年生の夏、母が満面の笑みでそう報告してくれた。かねてから弟か妹が欲しいと思っていた私は大いに喜びで新しい家族がやって来る日を心待ちにした。三十六歳になった母にとっても待望の第二子。家族皆で大喜びしたのを覚えている。
(弟でもいい、妹でもいい、いっぱい一緒に遊ぼう。本も読んであげよう。勉強も教えてあげよう)
そして生まれてきたのが妹の美愛。真っ赤な顔で泣きじゃくる九つ違いの妹は小さくてふわふわしていた。
「美恵ちゃん、抱っこしてみる?」
ようやく首の座った妹を初めて抱いた時、少し力を入れただけで壊れてしまいそうな気がして怖かった。
「あ、私を見て笑ったよ? よしよし、美愛ちゃん、お姉ちゃんですよ」
無条件に可愛い小さな小さな妹。彼女は一瞬にして我が家の中心となった。だが不思議なことに父や母を妹に取られたという感覚はなかった。両親の視線がいつも美愛に向いているのと同じく私の視線も常に彼女に向いていたからかもしれない。
「小さい子の顔ってどんどん変わるんだね」
最初お猿さんみたいだった美愛の顔も徐々に女の子の顔へと変わっていく。
「そうねぇ。あなたもそうだったのよ」
母はそう言って私に優しい眼差しを向ける。
(じゃあ私もお父さんやお母さんに似ていた時期があったのかな)
今は全く似ていないけれど、ほんの一瞬でも両親に似ていた頃があったのだろうか。そんなことを思いながら母に抱かれた美愛を見つめる。
(美愛の目、お母さんそっくりだ。顎のあたりはお父さんに似てる)
美愛は両親の特徴をよく受け継いでおり、その名の通り美しく愛される子へと成長していった。嫉妬を覚えることが全くなかったと言えば嘘になるが、それでも小さな妹への愛情はそんなものを忘れさせてくれる。私は美愛をとても可愛がった。美愛も私の後をついてまわりそんな様子を微笑ましく見守る両親。思えばこの頃が一番幸せだったのかもしれない。私にとっても美愛にとっても。
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