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「でもよ、俺思ったんだけどさぁ。お前の母ちゃんって目もパッチリしててアイドルみたいな感じじゃん? 父ちゃんだってどっちかっていうとハッキリした顔だろ。何でお前だけそんな地味な顔なんだよ。全然似てなくね?」
山下の子分である野村がしたり顔で頷く。
「ああ、俺もこの前の授業参観で思った。確かにこいつって父ちゃんにも母ちゃんにも似てねぇよなぁ」
「あ、わかった!」
と、山下がやけに嬉しそうに両手を打ち鳴らす。
「お前、拾われたんだろ」
容姿に対する悪口には慣れていたが、この〝両親と全然似てない〟〝拾われたんじゃないか〟という言葉に私は大きな衝撃を受けた。
(私はお父さんとお母さんの子供じゃない?)
急に自分の大切な拠り所を失ってしまったような気がして目の前が真っ暗になる。
「うん、きっとそうだ。お前は橋の下で拾われたんだ!」
「うわ山下、お前その言い方古くね?」
「そっかぁ? じゃあ、あれだ。ショッピングモールだ。きっとお前の母ちゃんショッピングモールでお前を拾ったんだよ」
私を指さしてケラケラと笑う男子たち。
(じゃあ私は……誰?)
男子たちの笑い声などもはや耳に入らない。いつの間にか私はその場にしゃがみこんでいた。
「おい森崎、お前大丈夫かよ? 何か顔青いぞ」
さすがにマズイと思ったのか山下の口調が変わる。おそるおそる私の顔を覗き込む男子たち。
「うるさい。あっち行って」
俯いたままでそう呟くと男子たちは逃げていった。
――拾われた子、拾われた子、拾われた子……。
その言葉が頭の中で何度も何度も鳴り響く。
(そう、確かに私はお父さんにもお母さんにも似てない。そんなことずっと前に気付いてた)
家族写真を撮る度、母や父と一緒に鏡に映る度、私は思い知らされてきたのだ。
――全然似てない。
でも血の繋がりを全く感じないわけではない。私は母方の祖父によく似ていた。既に他界しており写真で見ただけだがその瞳は重苦しい一重瞼でほっそりした顎をしている。あと、疎遠だったらしく写真すら見たことはないが亡くなった母の姉にも似ているらしい。親戚の人がそんなことを言ってるのをちらっと聞いた。
(うちにはちゃんと赤ちゃんの頃の写真だって、へその緒だってあるもん。拾われた子のはずなんかない。そうだよね?)
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