第一話

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第一話

ーーーーーピチョンーーーーーー 水面へと雫が落ちる音が響く。 人一人がそこにで生活するにはちょっと狭いスペース、  薄暗く肌寒い密室だ。  室内は、周囲が石作りで囲まれ、正面には金属製の格子で、格子の向こう側の通路からは、中に収容されているものがまる見えの状態。 ここは、ゼルダ城地下牢獄と呼ばれる犯罪者を収容するための独房。  床には溝が掘られ、その中をどす黒い水で満たされ、水面にはありえないものが異臭を撒き散らしながらぷかと浮いている。  その浮いている物はそこで収容され、鎖で繋がれた者が漏らしたは排泄物や吐瀉物の類いだ。  それら排泄物や、吐瀉物が本人のものであるならばまだいい。  だが、この溝はいくつもある隣の部屋とも繋がっており、隣の部屋の誰だかわからないもの、あるいはその向こうの向こうの誰かが撒き散らしたものであり、現在この部屋に繋がれているものが撒き散らした物ではない。  この部屋に繋がれているのは、【エレナミラージュ=クリスティーン】 今年18となり、この、アースキャニオンでは13歳で成人と認められ成人して五年目の彼女は、現在この地下牢に幽閉されている。  彼女の罪はゼルダ城宝物庫への侵入と過去数回に渡り、この牢獄から脱走しての脱獄の罪だ。  しかも、そういったことを何度も繰り返しているので、その罪はそこらへんの凶悪殺人犯や大泥棒というような輩よりも非情に重くなっている。  しかも、この牢獄に幽閉され者は、人としての扱いはなく、かつてこの地域に存在していた奴隷とよばれる人種よりも酷い扱いを受けている。  その証明が現在置かれている彼女の情況。  家畜のように首輪を巻かれ天井から伸びる鎖で吊されるように繋がれ、両手両足にも足かせを嵌められていて、身動きができないという状態。  しかも、牢獄内で頭がおかしくなり、騒ぎ立てることを防ぐ目的と、牢獄内での自殺を防ぐためという理由で、口にも猿ぐつわをかまされている。 さらに、衣服は愚か下着すら剥ぎとられ、全裸というかたちでの投獄。    彼女の長い髪は看守の責め苦によるものだろうか?  汚物が付着しながらも白い肌に纏わり付き異臭を放ち続けている。  これだけの状態をみれば、彼女がいかに殺人犯やその他の凶悪犯罪者が被る罪より惨い扱いを受けているというのがおわかりいただけるであろう。     彼女、エレナが全裸に剥かれ汚物漂う水面に脚を入れられ既に人間という扱いを受けていないのだが、彼女はそれでも一応女の子の部類。  もちろんこの地下牢獄には、男尊女卑や女尊男卑というものはまったく存在しない。 つまり、囚人の世界での犯罪者という完全なる男女平等だ。  彼女、エレナを含めて地下牢獄に収容されているものは日がな吊されそのまま、死を待つだけの状態。  食事に関してはほとんど与えられない。 例え与えられたとしても、殆どが残飯や腐りかけたような食材を看守が与えるといったような状態。    彼女が収容されて、どのくらいの日数が経過したのかはわからない。  たったの数日目なのか? 数週間が経過したのか、それとも、数ヶ月? 数年?  見回りにくる看守が言うには女の子でこれだけの扱いを受け数日もこの中に収容されていれば、既に頭がおかしくなり発狂するか、こと切れてそのまま亡くなってしまうことが多いそうなのだが、ふしぎな事に彼女は一切口を開かず微動だにしない。  それどころ、猿ぐつわを噛ませられながらも不敵に笑みを浮かべているだけなのだそうな。    現在、エレナが収容されている独房、地下牢獄より上に広がる世界は草木も眠る丑三つ時。  地下牢獄の世界には時間という概念がほとんどなく、昼間がいつで夜がいつなのかわからない。 通路に燈される魔導灯の明かりのみの薄暗い世界。  エレナ収容されている一室に、カツンカツンと、踵で床を蹴りながら侵入してくるものがいた。    この地下牢獄の世界で汚れてもいいように、そして何か不測の事態が勃発してもすぐに動きやすい格好であるが、ゼルダ公国の刺繍が施された、厳つい制服に身を包んだ看守。  脚に無駄なお肉が付いていないが程よく鍛えあげられた脚線美を自己主張させているのは、看守が履くための長靴だ。 決して上の世界のお洒落な女の子が履くようなロングブーツの類いではない。  看守が持つのは携帯型の魔導灯を片手に、そしてもう片方には太くて硬い拷問用の警棒を分厚くて頑丈そうなグローブ越しに握っている。      三つ編みにした腰元まである髪を揺らしながら拘束されているエレナを顎を突き出して見下すように確認していた。  看守の耳に聞こえるのは、zzzz……。 と、心地好く眠りに入っている時に聞こえる寝息だ。    思わず大声で怒鳴り付けてエレナをおこそうとしたのだが、自重。 「エレナ…………エレナ! 起きろ!」 と声が潰れたようなしわがれた声で壁の向こうの囚人に聴こえない声で彼女の名前を呼び、起こそうとする。  だが、看守の呼び掛けに返ってきた返事は。 「ウニャウニャウニャウニャウニャ…………」 と眠っているときの定番の寝言だろうか?猿ぐつわ越しになにを行ってるのかわからないが、どうやら、彼女は、寝言を言ってるらしい。  看守はこんな情況に陥っているのによく眠れたものだと感心するも、飽きれてものが言えない状態。  思わず、殴りたくなる衝動を抑えてもう一度起こすためによびかけてみるが、返って来た応えはやはり、寝言のみ。  看守は仕方がないとばかりに、握っていた、警防でエレナの頭をコツンと軽く叩く。  だがこれで起きたらどんなに楽だったか? エレナは「ひふぁいよ~」と寝言で言うだけ。 「おきろ、エレナ……」 と声にならないしわがれた声で、今度は耳元で囁くように声をかける。  「おおおあらひっはいはよ~」と、猿ぐつわの向こうでエレナが涎を垂らしながら呟く。  既に彼女が何を言ってるのかわからなくなってしまった看取は、こんな情況でも熟睡していることに我慢できなくなってきていた。 …………。  なるべく彼女にダメージを与えずに起こそうと試みていた看守だったが、やはり我慢の限界だったのであろう。  床に魔導灯を起き、握っていた警棒をを強く握りしめる。 手に嵌めている、グローブの形を崩されて、看取が力を込めているのがわかるのだが、握っていたはずの警棒が、ポロリと床に落ちると同時、握り混んでいたはずの右手がダラリ広がる。  カラン! コロン! と音を立てながら転がる警棒の大が響き渡ったときだ。 「サラ、おはよう!」  と……、いつのまに、猿ぐつわがはずれてサラと呼ばれた看取に挨拶を返すと。 チャポン!  と汚物漂う水場から、たゆんたゆんと形のいいバブリーな胸を上下に揺らしながら這い上がる。  汚物まみれで肌に張り付いていた髪はどこへやら? フワリと躍るように舞い上がる。  凶悪犯罪者をつなぎ止めておくための拘束具をまるでなかったかのように、抜け出すエレナの行動に、まるで、見慣れたものでも見るかのような光景を見つめていたサラは、近寄ってくるエレナが自分に触れられないようにと、ソソッと移動する。  それもそのはずだ、彼女は今まで汚物まみれの水場に浸かっていたのだ。 いくら看取で長靴にグローブという防具をしていても汚い。と思うのはあたり前だ。 他の独房では見せない素の行動。 「それで、なんのよう? サラ……」 「おきてたならさっさと返事しなさいよ」 「あたしだって、こんな臭いところに何度も出入りして、眠るのだって大変だったんだから、仕方ないじゃん」  と、全裸のまま言い訳しているエレナだったが、突如、さらに近付き、サラに抱き着こうとする。 「やめ……やめろ! エレナ!汚い! 寄るな! 来るな! 近づくな!」 「ウヒャー♪ うひゃー♪ どわっひゃー♪」  と、身体に付いていた物を撒き散らしながら、ビチャッビチャっと濡れた足で追い回し、ちょっとした悪ふざけをするエレナに、逃げ回る看取のサラ。  「依頼だよ! エレナ! スクルージディスコニアンの領主、スクルージ氏からの依頼!」  と、逃げ回りながら早口で用件を言うサラ。  さらの言葉に、悪ふざけをしていたエレナはピタリと止まり、サラの話しに耳を傾ける。
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