act.1 北回帰線

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 俺が夏那を初めて抱いたのは、夏那が大学を卒業して大学院に進んだ夏の事だった。  留学を終え帰国していた夏那が、わざわざ俺に会いに夏休みを利用してNYに来てくれた。  このマンションに引っ越したばかりでまだ部屋にろくな家具も無かったので、夏那と一緒にNYの街を色々楽しみながら探し回った。  だから俺の家にあるテーブルもチェストも全部夏那の好みだ。優しいカントリー調で統一された俺の家を訪れた後輩とかは「なんか絶対に他の女を連れ込めない部屋ですね」と笑う。  浮気なんて絶対論外の俺に何を言うんだリエーフ。側にいたアレクに思いっきり頭を叩かれていた。温和なアレクを怒らせるのはこのリエーフくらいだ。    俺はあの時に、身体を硬くして震える夏那の全身にある傷痕のひとつひとつに口付けて行った。幼い夏那が父親による虐待によってその身に受けた無数の傷痕だ。  だが俺にはそれすらも愛しい夏那の一部なのだ。 「昂輝…」  その時に、俺の身体をしっかり抱き締めてくれてた夏那の優しい腕は一生忘れない。  自分が一生を掛けて護ると決めたその魂は、いつだって俺の傍にいる。 99d9b942-5ac5-4109-b1b6-22e179607467
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