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キッと睨む両目は殺気すらも含んでいるようで、イリスは若干後ずさったが、告げられた言葉からしてその必要はなかった。
「おやつの時間だ。三時のおやつは大事だ、何か用意をしてくれ」
この神様、大のスイーツマニアである。
「キミって神様は……相変わらずだね」
朝、昼、おやつ、夜、深夜。いずれも忘れずにお菓子を食べる神。
成長が遅いのは神様だからという理由以外に、まともなご飯を食べないからではないだろうかとイリスは常々思っている。
まあ今更、お米や野菜を薦めた所で素直に聞き入れる神様でないことは理解しているため放置。人間と違って栄養バランスが崩れることもないらしいし別にいいか、というのがイリスの考えだ。
けれど、それはそれとしてシュガリスの望むお菓子を準備出来る余裕は今の城内にはなかった。
「すまない。スイーツを用意してあげたいのは山々なんだが、後にしていただけないだろうか。ちょっと誰もそれが出来る空気ではなくてね」
「そんな食い飽きたものは初めから求めてなどいない」
「嬉しい要望だけど、キミが本当に望んでいる方も難しいんだ」
「……それはお前がこれからする話に関係していると?」
「まあね」
シュガリスは、それならば仕方ないと口角を上げてため息を零し、人差し指をゆっくりと前に出した。
大理石の床が広がる室内の広いスペース、そこに向かって軽く指を振る。
瞬く間にその場に現れたのは、調理台に洗い場、コンロにオーブンに冷蔵庫。
シュガリスがこれらを部屋の中に出すのは今回が初めてではない。イリスが驚くことはなかった。むしろ何となくこうなることを予想していて、内心「やっぱりな……」と心に思いながら近づいた。
「キミもお菓子作りに必要な道具がなにか、分かってきたようだね」
「お前を見ていれば嫌でも覚える」
調理台に備え付けられた棚の中には調理道具が一式詰め込まれている。足りないものはイリスが声に出せば一瞬で中に出現する仕組みだ。
冷蔵庫も同様。開ければ果物や野菜が入っている。中身を一通り見渡したイリスが「バター」と声に出すと、冷蔵庫の中に無塩バターと発酵無塩バターが現れた。
「言わなくても分かっていると思うが、それらは全てお前にしか見えていない。安心してスイーツ作りに専念するといい」
「そうさせてもらうよ、王子が自室でお菓子作りなんて誰かに見られたら驚かれそうだ」
冷蔵庫を閉めて、シュガリスの方を向く。
ソファーに腰掛ける彼の下に行き、優雅に腰を下ろして高さを合わせた。
「リクエストは?」
「ザッハトルテ。ビターな気分だ」
「かしこまりました、神様」
右手を左胸に当てて頭を下げるその姿は王子というよりも神様に仕える存在。
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