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イリスは何も言わないシュガリスに安心し、口元を綻ばせた。
初めてシュガリスに手作りのスイーツを食べてもらったときこそ無言というのは不安であったが、共に過ごしていくことで徐々に分かっていった。容赦のないシュガリスは不味いものは不味いとはっきり言う。なので無言というのは特に問題ない、シュガリスなりの「美味しい」という表し方なのだ。
イリスは視線を直ぐにカップへ戻した。幸い紅茶が溢れていたことはなかった。
お好みでミルクとレモンを添えたストレートティーをシュガリスの前に移動させると、ようやくイリスも、ゆっくり自分のザッハトルテの味を確かめられる。ここからはただの友人同士のお茶の時間だ。
「何か良いことでもあったようだな。トルテに込められた魔力がとても喜に満ちている」
長い間黙り込んでいたシュガリスの重たい口から発せられたのは、面白そうな声色。遠回しに、早く話を聞かせろと訴えている。
「そう急かすな。アフタヌーンティの時間はたっぷりある、ゆっくり話そうじゃないか」
それをイリスは己のティーカップを手に取ってスルーした。
ミルクやレモンは入れず、砂糖がたっぷりの甘いストレートティーが口の中に広がる。砂糖は少なめの方が甘いケーキのお供として好みなイリスだが、今回作ったザッハトルテは微糖でかなり苦めなため、このくらいの甘さが丁度いいと判断した。
カップをソーサーに戻す音がひと際大きく響く。
これを区切りとして、つい先ほどの出来事が語られる。イリスはとても落ち着いた声で話し始めた。
「数時間前、父上に呼び出されたんだ――」
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