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僕はこの提案を、退けるべきだったと思う。美奈の魂胆や企みが不透明でどこか怪しい事も、分かっていた。
「……来たんだね。私は絶対来ないと思っていたよ」
美奈はあの日と同じ石に座って、スマホを弄っていた。今日は月明かりが無く、暗闇に端末の光が映えていた。
「蛍、いないね」
「そりゃ毎日は見れないだろ」
美奈の顔は暗闇で見えない。美奈が立ち上がってスマホの電源を落とす。そして僕と向かい合った。
「田中先生と馬場先生は、付き合っているらしい」
「!?」
瞬間、手が燃える。突然の事に動揺してしまったが、落ち着いて心の平穏を取り戻そうとする。深呼吸を1回、2回、3回、4回。
「おおー、燃えたね」
「いきなり何するんだよ!」
僕は思わず怒鳴るが、美奈は何食わぬ顔をしながら豪快に笑っている。
「やっぱり燃えるんだね」
美奈は少しの罪悪感も無くそんな事を嘯く。
思えば、美奈が罪悪感を感じた場面に出くわした事が無い。罪の意識がインストールされていない、人の心として最も大事な物を彼女は持っていないのかも知れないと思った。
「私は、穂高が好き」
「!?」
彼女の言葉と共に、全身が燃える。僕は人の心が無いろくでなし人間を恨みながら、人生2回目の川飛び込みを敢行した。美奈の笑い声と、僕の絶叫をBGMに。
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