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美術館。人々にとっては鑑賞を思う存分に楽しめる場所だが、僕にとっては断頭台に等しい場所だった。美術というのは否応なしに心を動かす物だ。僕は最悪、放火魔になる可能性がある。それなのにその誘いを断らなかったのは一種の諦めと、どうにでもなれという破滅願望に近い物だった。
「この県立美術館は、県内で1番の絵画を保有しているんだ。しかも高校生以下は無料だ。経済的にも素晴らしい場所と言って差し支えないだろう」
私服の美奈は電車に揺すられながらそんな事を楽しそうに話している。こんな時は気の利く言葉の1つでもかければいいのだろうが、今の僕にとって美奈の存在は処刑執行人に等しい。
美奈は、何を考えているのだろう。もしかしたら僕を道具としか考えてないのかも知れない。放火用の道具。ライターや油よりも僕の方が早く燃え上がる。案外そんな理由なのかもしれない。
そんな妄想に頭が支配されるくらい、僕は憔悴しきっていた。
「着いたね。外観は3年前に改装されていて、大理石が床に敷き詰められているんだ。最高だろう?」
「……ああ」
玄関には有名所の絵が並べられていて、装飾も煌びやかだ。寂しい景色に、廃墟の群れ。逸品たちが所狭しと飾られている。
「……あれ?」
体が、燃えない。確かに絵には感動している筈だが、体が着火する気配が無い。
「どうしたんだい?そんな所で止まってないで、早く進もう」
「……うん」
僕は美奈に手を繋がれて、駆け回るように美術品を堪能する事になる。41分33秒の、泡沫の様な鑑賞。僕の体は1度も燃えなかった。
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