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ところが、彼女は僕を殺害しようとしたことなど覚えていなかった。記憶喪失だった。
事情を知らない家族や友人たちは、彼女をいたく心配し、献身的に支えた。おそらく僕が真実を告げても、だれも信じてくれないだろう。おまけに証拠もないため、警察も相手にしてくれそうにない。
だから、僕は彼女と結婚する、という復讐を選んだ。
僕が彼女の恋人であったこともあり、縁談はスムーズに進み、僕の決意は美談となった。
「わたし、ときどき怖くなるの。もし記憶が戻ったら、すべてを失うんじゃないか。そんな予感がして……」
突然、彼女が不安げに言った。
「だいじょうぶだよ。なにも怖くない。昔のことを思いだすだけじゃないか」
わきあがる嘲笑をこらえ、僕は彼女を優しく抱き寄せた。
「どうか希望を持って欲しい。きみが記憶をとり戻す日まで、僕はずっと待つから。……楽しみにしてるよ」
僕の、嘘偽りのない感情だ。
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