クチナシと黒い影

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「ちょっと早いわ。余韻を楽しんでるところだったのに」 「うるさい売女(ばいた)。さっさとして」 「はぁい」  身を起こした女が、骸となった男の指から指輪を外そうとする。が、指輪は男の指に食い込んでいて外れない。 「ねぇリコ。外れないわ」  リコと呼ばれた影は、女が持ち上げている男の腕を一瞥すると、腰の細剣を抜いて、一閃。  刃が弾く月明かりとともに、風を切り裂く音とともに、男の指がぼとぼとと落ちた。 「きゃあ、こわい」 「反対」  芝居がかった所作で驚く女と、ひどく冷静に命令する影。 「はぁい」  女がもう一方の腕を持ち上げ、影がその指を切断する。 「急ごう」 「りょーかい」  ベッドに転がる指の中から、指輪がはめられているものだけを拾っては外していく女。  室内を物色して金目のものを片っ端から腰のポーチに放り込んでいく影。 「こっちは済んだわ」 「こっちも」 「連中は?」 「ぐっすり。姉さんのおかげで」  床に落ちていた黒絹の衣を影が拾い上げ、女へと投げてよこす。 「ありがと」  女は衣を身に纏い、ぽんぽんと叩いて埃を落とした。衣に沁みついたクチナシの香りがふわりと広がる。 「大漁大漁っと」 「行こう」  小声を交わしながら、女と影は部屋をあとにした。甘ったるい香りを仄かに残して。
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