クチナシと黒い影

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 月光の薄明かりが照らしている。  青白く塗られたベッドの上で、男と女が絡み合っている。  下は女。すらりと伸びた黒髪と、小麦のような褐色の肌が美しい。手足や腹回りは華奢であるのに対し、豊満なその胸は行為のたびにリズムよく揺れている。  上は男。体躯は小太りを通り越した肥満体型。身なりは全裸だが、両手の指にはめられた指輪には、大小さまざまな色の宝石が光っている。  男が無心に腰を打ち付け、女が喜びに喘ぎ震える、  窓は開いているが風はない。男女の営みのせいか室内は蒸し暑い。  男が女の唇を吸い付くように接吻し、女が男の舌を絡め取って応える。  流れる汗が、こぼれる唾液が、弾ける愛液がシーツを濡らす。  窓辺のカーテンがふわりと揺れ、一縷の風が通り抜けた。  快楽をむさぼるのに夢中の男が、それを気にかけるはずもない。  カタリという音とともに、わずかに開かれた扉が閉まった。  その音は、軋むベッドの音に消され、男の耳には届かない。  わずかな音も立てることなく、ひとつの影が忍び寄る。  限界が近い男は、その姿に気づきもしない。  女が動く。両腕を男の首に回して強く抱き寄せ、両足を男の腰に回して強く引き寄せる。  それ気をよくした男は女を強く抱き返し、ひときわ強く腰を突き込んで、果てた。  男の体がぶるりぶるりと震え、最後に一度だけ大きく打ち震えるや、白目をむいて崩れ落ちる。  ――脇下から男の心臓を貫いた短剣が、ずるりと引き抜かれた。月を受けた青い刀身を黒い血潮が流れ伝った。
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