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「お兄ちゃん、お兄ちゃんの不安も分かるけど。お兄ちゃんはこのままあきらめて本当にいいの?」
「俺だって挑戦はしたい。でももう奨励会の時とは違うんだ。父さんが俺の為に今の会社を紹介してくれたし、プロ棋士になったらそこを辞めなくちゃいけなくなる。父さんの気持ちを踏みにじりたくはない」
「違うよ、お父さんがわざわざ将棋部のある会社を紹介したのは就職して欲しいだけじゃなくて、お兄ちゃんにもう1度将棋への情熱を取り戻して欲しかったからなんだよ」
「何だって⁉父さんそんな事一言も言ってなかったぞ!」
父の意外な本心に驚きを隠せない俺に妹は更に言葉を続ける。
「私達が奨励会を退会してから、私は女流棋士になったけど、お兄ちゃんは将棋も指さずにひたすら就職活動で見てて辛かったし、正直自分だけ将棋を指して後ろめたいと思う事もあったわ」
「だけど、それは仕方のない事だろう、お前が気に病むことじゃない」
「でもお兄ちゃん、団体戦やアマの大会に出始めてからとても活き活きしだしたし、それで私も自分の将棋に集中できるようになって調子が上がって、タイトル挑戦までこぎつけたの」
「それはお前の力だろう、俺は何もしていない」
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