塔矢の夏

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「…目新しいものは特に無し、か。」 当時のレポートを頼りに色々と回ってみたが、十年経っても特に新たな発見は無かった。 東京は移り変わりが激しくて、暫くぶりに行くとまるで知らない街のようになっている。 ここはまるで時が止まっているかのようだ。 東の空が薄らと暗くなる頃にテントに戻った。 ランタンを灯すとテントに人影が映る。 「涼香、です、お祖母様が、夕飯を、一緒に、どうかって。」 「ありがとう、ご馳走になるよ。」 柱時計がかちかちと鳴る茶の間で三人で卓袱台を囲む。 懐かしい味がする。 十年前にもよく飯を食わせてもらっていたことを思い出した。 「変わらないですね、ここは。」 「田舎なんてそんなもんさね。」 婆さんが煙草に火を点ける。 無言で差し出された煙草を一本頂戴して火を点ける。 涼香くんが顔を顰めて、窓を開いた。 「しかし、あんたも薄情だねぇ、また来るなんて言うもんだから、随分長いことこの子は待っていたんだよ。」 「お祖母様!?」 「なんだい、本当のことじゃないか。」 「私、お茶を煎れてきます!」 涼香くんはばたばたと台所に駆けていった。 そうか。 待っていたのか。 悪いことをしてしまったな。
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