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小さなバーナーで沸かした湯で珈琲を入れる。
満天の星空の下で二人で並んで珈琲を飲んだ。
「ここの星空は変わらないな。」
「そう、ですね、東京は、全然、星が、見えませんから。」
あの時と同じように紅く燃えるアンタレスを見つめる。
「……すまなかったな。」
俺の言葉に涼香くんが驚いたように此方を見る。
「待っていたなんて思いもしなかったよ。」
「いいんです、社交辞令だって、わかってます。」
涼香くんは、ふい、と目を逸らして湯呑みに口を付けた。
暫く、無言の時間が続いた。
少し居心地が悪くなった俺が煙草に火を点けたと同時に涼香くんが口を開く。
「彼女に、昔、助教授が、来たことを、話したんです。そしたら、それは、涼香の、初恋だった、って。」
煙草を燻らせながら、涼香くんの話を黙って聞いていた。
普段はあまり自分から話すことのない涼香くんが今日は饒舌だ。
初恋、か。
当時の涼香くんからしたら、いくら二十代とはいえ、俺は紛れもなくおじさんだったろう。
「そうですね、って、答えました。」
「!?」
思わず、珈琲を吹き出しそうになってしまって咳き込んだ。
「大丈夫、ですか?」
急に咳き込んだ俺を涼香くんが心配そうに覗き込む。
まさか、涼香くんの口から初恋なんて言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。
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