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五分と経たないうちに支度を終えた涼香くんが助手席に乗り込んでくる。
俺はとにかく東京に向かって車を走らせることにした。
「どうしよう…私がちゃんとついていれば…。」
涼香くんはうわ言のように繰り返している。
とても詳しいことが聞ける状態ではなさそうだ。
どうする?
涼香くんだけでも新幹線で東京に向かう方がいいのか?
だが、まだ始発までは2時間近くある。
それにこんな状態の涼香くんを独りで行かせるわけにはいかない。
ナビの到着予想時刻は昼過ぎになっている。
少しでも先に進もう。
俺はアクセルを強く踏んだ。
助手席で涼香くんがスマートフォンを耳に当てている。
きっと彼女に電話をかけているのだろう。
しばらくして、スマートフォンを耳から外すとぱたりと膝の上に置いた。
「出ないのか?」
そう聞くと涼香くんは力無く頷く。
「寝ているだけじゃないのか?」
時刻はまだ朝の五時だ。
眠っていたとしてもおかしくないだろう。
けれど、涼香くんは大きく首を横に振る。
「……厭な、夢を見て、目が覚めたんです、そしたら、これが。」
涼香くんが此方に向けたスマートフォンの画面を横目で見る。
『すずか、ごめんね』
そこには無機質な文字でそう書かれていた。
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